小惑星によるベテルギウス食

「副題:1000 年に一度なら行くしかないよね」

H.W

1)日時:2023 年12 月12 日 4 時12 分(現地時間)
2)場所:トルコ・ブルサ郊外
3)観測対象:小惑星レオナによるベテルギウス食
4)機材と撮影方法
EF100mmf2.8、tokina28-75mmf2.8、NIKON50mmf1.2、EOS60Da、ソニーα7s、ソニーα7Ⅲ、AZ-GTi、スカイメモS
減光の変化を確実にとらえるため撮影はすべてビデオ撮影を予定しました。レンズの撮影対象は次の通りです。・・・・・ベテルギウス単体、冬の大三角、オリオン座全体
5)概況
ツアー参加者は20 名。S天文協会の企画・主催したツアーであり、往復の飛行機の手配は参加者自身が行いました。集合場所はトルコ・イズミルということころなのですが、羽田トルコ間は1 日1 便なので、実際は羽田集合でした(笑)
メンバーはガチの掩蔽観測家と小惑星捜索家が2/3、それ以外はなぜか日食観測家でした。
参加メンバーの中に新星発見で高名なK氏がいらっしゃいましたが、氏から「あなたU氏に似ているねえ」と言われました。うーん、お名前は存じていてもお会いしたことのない U氏 に似ていると言われても返のしようがなく、愛想笑いで誤魔化してしまいました。

予想では最大13.7 等、最小1.1 等の減光とあり、最大であれば継続時間が12.2 秒、見た目だとベテルギウスは徐々に暗くなり、食の最大では一瞬消えたように見えるに違いないと想像していました。これもベテルギウスが恒星の中で最も大きな視直径を持つからに他ありません。逆に最小だと、普段掩蔽観測をしていない人には少なくとも3 等程度は減光しないとその違いに気がつかないだろうから、知らない間に終わっていた、ということになるでしょうとのお話が事前にありました。
当然期待は皆既か金環か?です。本来この手の観測に20cm 超の口径をもち、かつF 値が小さいほうがシンチレーションの関係から望ましいとのことですが、そこは海外です。難しいことはガチ組の方々にお任せして、現象そのものを楽しもうという、かなりお気楽な遠征です。
広角レンズで撮影した場合、視野からぽつんとベテルギウスが消えた画像など誰も見たことがありません。ワクワクドキドキしかありません。日食に40 回近く行って少し感性がおかしくなっているのかも知れません。いや、日常の生活は普通に過ごしております。ご心配なく。
伺った話では、過去1 等星の掩蔽は4 回あり(すべてレグルス)黄道帯から外れた位置にあるベテルギウスで掩蔽が起こるのは1000 年に一度!だそうです。詳しくは星ナビ2023 年10 月号、12 月号、2024 年2 月号をお読みください。
この現象に対する氏を始めとした関係者の方々の並々ならぬ意欲が感じられます。この食については、2004 年にロシアの天文学者から情報提供があり、国立天文台のS先生により日本の掩蔽観測者にも当時紹介されていたエピソードを日食観測家のI氏がメーリングで打ち明けられました。発見したロシア人も凄いのですが、20 年も前の話を覚えていたことにもある意味感心しました。
6)結果
雲のため現象の確認は出来ませんでした。予定時刻から30 分後に雲が取れクリアな空になりましたが、これはいわゆる天文あるあるです。前日のロケハン時に天候の悪化を見越し、当初の観測予定地であったチャナッカレ近郊から東に200km 以上も移動し、そこで観測地探しと敷地の許可をいただくなど、慣れない海外の地で出来ることはすべて尽くしていただきましたので、結果はまた別物です。これはダメだなと判断した後はリアルタイムで行われていたYouTube の中継を見ていました。確かスペインからの中継だったと思うのですが、食の予想時刻に徐々にベテルギウスが暗くなり、1 秒ちょっと消えたように見えました。PC の画面を見ていた数名からも「あ、消えた!」と声が上がったのを覚ええております。でも実際には消えていないことがのちの観測結果からわかりました。消えたように見えたんだけどなあ、ど素人の気のせいなのでしょうか…
7)その他
翌13、14 日はふたご群の観測を予定しましたが、こちらも悪天候のため思ったような結果は得られませんでした。ツアー全体を通して振り返ると、天気が良かったのは最初だけで、最終日のイスタンブールでは終日雨でした。

個人的には2006 年皆既日食以来のトルコ訪問でしたが、あの時は1 泊4 日という強行軍でトルコ料理を味わう機会も無く、ただただ疲れた記憶しかありませんでした。ですが今回は9 日間。世界3 大料理であるトルコ料理も十分楽しめました。さて、次にトルコに行く機会があるとすれば2030 年の金環日食ですが、体力があれば海外に遠征したいとは思いますが、北海道で見られますのでわざわざ金環で海外に行くかなあと自分でも思っています。
最初にこの現象を知ったのが2022 年4 月のことでした。当時はまだ新型コロナウィルスによる行動制限が行われており、翌年の皆既日食さえ見通しが立たず、日食遠征の話が具体化したのが同じ年の11 月でした。正直ベテルギウス食の話を聞いた時の第1 印象は「ふ~ん」でした。
ほぼ興味がなかった、が偽らざる心境です。ですが、オーストラリアから戻ると遠征の話は加速度的に早く進みだし、迷いに迷い10 月のアメリカ金環日食をパスして申し込んだのが8 月に入ってすぐでした。
今回一番感激(というか楽だと思ったこと)は全行程食事が付いていたことです。最近、朝食以外はほぼ自己調達のツアー(料金が安い)にばかり行っていたからでしょうか、あごあし付きって改めていいなあと当たり前のことに内心喜んでおりました。
最後に、この遠征を企画催行するとともに、ツアーのまとめ役をしていただいたS天文協会のF会長とH副会長にこの誌上をお借りして御礼を申し上げます。


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